小樽の銭湯を味わう

2022年05月28日

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 小樽の魅力の源流ともいうべきものに触れたい人には、ぜひ町のお風呂屋さんに立ち寄られることをお勧めしたい。そのいずれもが粒よりの個性はぞろいで、回数を重ねるたびにいつも新たな発見がにじみ出てくる不思議は、まさに小樽の町並みがもつ味わいにぴたりと重なり合う。

 湯屋のはじまりは明治初年とされる小樽では、かつて湯屋を指してドンブリ屋という言い方が用いられた。湯に入る際の擬音からきたようだが、ちなみにこれは松前の古い銭湯で聞いたものと重なり、松前神楽の伝承と合わせて考えるとき、実に興味深い文化の糸が見え隠れする。

 小樽の銭湯の特色を、コンパクトに表現するとこうなるだろうか。表情豊かな建物と道具たち。手づくりの湯の味わい、いやされる情と体、そして日曜早朝の朝風呂サービス。

 稲穂湯は、スクラッチタイルの細かな肌目が、モダンなファサードとちょう和して安定感を醸し出す。浮世風呂の時代からあうんの仲にある床屋と一体になった造りは見逃せない。入口の灯台に導かれて浴室に入ると、遭わせて6枚の額入りモザイクタイルがズラリと居並ぶ様はさながら銭湯美術館だ。

 道内の銭湯建築にはつきものだったむくり破風の長命湯や、入母屋破風の日の出湯の玄関構え。

 洋風の端正な風貌の正面に、屋号入りの半円ペディメントを冠した鹿の湯と沢の湯。

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 赤と緑のタイルが洒落た感じを演出する町医のような大門湯は、年代物のショーケースに収まった石鹸箱などのパッケージがとても懐かしい。

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 そして蒲鉾型のデンキ湯は、海鮮の町小樽にこそふさわしいし、アールデコ調が顔をのぞかせる若竹湯と、看板建築の背後に和風がたたずむ古湯小町湯は、和洋混淆の歴史都市小樽を今日に語り継いでいる。

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 古の小樽運河が秋・冬2葉のタイル絵に焼きつけられて、しっかりと保存されている朝日湯。

 地下に温泉場のある瀧の湯だけでなく、小樽には自ら温泉を掘り出して提供している銭湯が多い。また温泉でなくてもじつに様々なかたちで自分の湯に工夫を重ねている。何か特徴をとラベンダー湯を始めたラジウム湯は、結局自らラベンダー園を造ってしまった。

 温泉地を除くと小樽だけという日曜日早朝の朝風呂は、昭和57年から始められてその輪を広げてきた。

 常連の中には10年以上にわたり雨の日も雪の朝も毎週のように、しかも札幌からの約36キロメートルをマラソンで通い続けてきたファンもいる。

 かつては70軒をこえていた銭湯も、約39軒(平成7年6月)にまで減少した。それでも対人口比にみる銭湯数は北海道一であり、質量ともに随一の銭湯天国といってよい。体だけではなく心も芯から温めてくれる小樽の銭湯は、人をやみつきにさせるたおやかな味わいにみちている。

(文~塚田敏信)

~小樽の建築探訪

 小樽再生フォーラム編

 北海道新聞社

 

~2015.12.29