彫刻のある片袖の民家⑲

2016年02月16日

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所在地  色内町四~二七

所有者  〇越 川又商店

建造年次 明治三十八年

 小樽の石造りの民家には、その特色として「飾り袖」があるということを書いておきましたが、この川又商店の「飾り袖」には、見事な彫刻を施しております。このような彫刻のある民家は北海道では凡らくこの川又商店のみではないか、と思います。

 川又商店の主人、川又健一郎は、明治二十五年に新潟市より、ごく親しい人達と渡道し、現在の貿易会館のあるところの〇越 早川商店に勤めた。この店は「茶と文房具」を売り、「丸越早川」と云えば小樽万有の生徒は誰一人知らないものはいなかったということです。と云いますのは、この「丸越早川」から売り出されている鉛筆の「日本武士」は値段も安く、しかも、書き易い、と云うので飛ぶように売れ、年間七十万本も売れた、と云うことですから、大したものだったと思います。

 ところで、その商法は「自由競争」を主としたものであり、市内に八箇所ある支店には、何らの干渉も掣肘もしない自由平等なものでした明治二十九年に現在の場所に支店を譲り受けましたが、後、稲穂町大火の厄にあいました。

 しかし、よく奮闘し、遂には本店をしのぐ繁昌を見るに至ったのであります。

 「飾り袖」の彫刻は、縁起を担いだものだと思いますが、正面の彫刻は「日の出」に「鶴」を配しております。「日の出」は、そこで売っている「旭」という銘茶を表わしたものでありますが、家運の隆盛をも願っています。鶴は「焼け野のきぎす夜の鶴」などと申し通り、家庭の平和を祈っているのでありましょう。また、側面には「のし」と書いた、その下に「亀」が彫られていますが、「熨斗(のし)」と云うのは、元来アワビで作るものであり、「のし」は「伸ばす」に通じ、「運を伸ばす」意であり、その下に「亀」を配しているのは「家運長久」の謂(いい)であります。とにかく「目出たいづくし〉の彫刻で飾っているこの袖には、当時の人々の心根が知られて懐旧の念一入(ひとしお)であります。

~小樽の石造建築 堀 耕 より

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※『この商店を再建したのは?』