港・今昔物語【11】

2016年08月25日

世は機械化時代

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 「いまどきの若いもんは満足に麻袋もつめねえ」と港湾労働者の古強者は舌うちする。昔まんぼ取りといわれた労務者荷役は一人ひとりが技術屋ともいえた。地上に何十段の米俵や大豆のはいった麻袋を積み重ねても途中から傾いて崩れ落ちるようなことは絶対にないというのが昔の仲仕の自慢であった。 

 岸壁と艀を結ぶものはよくしなる踏み板一枚だが重量袋を二つ三つと軽々肩にのせて倉庫と艀を日に何百回と往復する労務者のものすごい体力とバイタリティは最近段々とみられなくなった。ウインチで操作されるバケットが船からトラックにバラ物を移しかえるし鋼材や平ものはフォークリフトがいとも簡単に運び、きれいに積みあげてくれる時代だ。いまさら袋ものの積みあげかたがじょうずのへたのなどといっている時代ではなくなったのだ。

 そんなことに気を使って腕を撫していては大量輸送時代にとり残されてしまうのだ。世はあげて機械化時代であり合理化でありスピード時代なのだ。その端的な現象が改正港湾運送事業法の施行による荷役業界の実質的合理化だ。ステべ専門業者は「船内に機械化は通用しません」と軽くおっしゃる。なるほどバラもののつまった貨物船底にフォークリフトはいらないしまたその必要はない。だが他の種々の貨物といえどもいつまでもホイッスルの合図でウインチであげたり下げたりでは能率があがらぬことおびただしい。

 時代はすでにコンテナーとパレット方式で輸送をスピーディにすすめている。なるべく人手を要せず効率的な機械化による荷役消化量をアップさせることにあるからひとつの企業がそれだけの能力がなければ同じレベルの同企業と合併して力をつけようというのが港湾輸送業者再編成を目的とする「改正港湾運送事業法」の主旨である。鈴木吉五郎とその子分の浜名甚五郎や鈴木市次郎の時代は昔々の物語りであり、中谷宇吉や蔦谷喜代治がハッスルした浜はもうなくなった。

 昭和四十三年九月の現時点で横割りから縦割りに新しく生まれかわるため、ステべ企業二社を二つのポイントにするか、船会社バックの倉庫業者二点を中心にするかの案が海運局から提示されている。前者をとろうと後者に落着こうと中小零細企業の群れはいずれかに合併するか系列にはいるかしなければ事業はつづけられない破目に追いこまれている。どっちについたら得をするか、誰といっしょに仕事をしたら余り損をしないですむか、業者はいま血まなこでムコを迎えるかヨメにゆくかで頭を悩ましている。港の今昔物語もそろそろ昭和四十三年の現時点で新体制の港は今後どう移りゆくかを見つめた方がよさそうである。

【完】

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おしまい