海の中から港町が~⑧

2024年03月27日

 「街の呼び名を変えよ」

 戦中の北部軍司令官、中将樋口季一郎の鶴の一ひと声であった。司令部がある札幌の月寒は、ツキサップと呼ぶ。これはアイヌ語くさいから天皇の国ニッポンらしくツキサムにせよ、というのである。「ハハーッかしこまりましてございます」と、時の札幌市長三沢寛一がかしこまったが、誰だってツキサップのほうに詩情を感じよう。フゴッペ、オサラッペなんていう地名があって北海道らしいのである。シクツ(祝津)などといわないでシクズシ、これが本当、手づくりの味。

 前に今は消えた北海道の珍地名に触れたことがあるが、婦羅埋(フラリモイ=根室)、朱丹(シュマドカリ=北見)、手品学(テシヨマナイ=北見)、嫌侶(キウリ=十勝)、剛牛(オべカウシ=十勝)、姉去(アネサリ=日高)、なんてのはもう残ってはいまい。佐念頃(サネンコロ=十勝)村の警察署長が鴨下金五郎で、奥さんの名が「おすき」というのは、紹介したはずだが大正の昔のこと。

 地名もなんだが、道内の‶先進国〟めざして、北陸はじめ本州から小樽へやってきた明治大正人の中には、次のような姓名があった。

 これ、クイズー。

釋迦牟尼仏(①)、八女(②)、村主(③)、正月一日(④)、四十四院(⑤)、牛屎(⑥)、牛糞(⑦)、人首(⑧)、七生(⑨)、父鬼(⑩)

 正解ー①ニクルベ、②ワカイロ、③スグリ、④アナ、⑤ツルシ、⑥ウバリ、⑦ウクソ、⑧ヒス、⑨ハブ、⑩チチオリ

 市内にその末裔が残ってはいまいか。

 さて、昭和元禄、色とりどりきらめくガラス工房で賑う港町から堺町にかけては打ちよせる高波が、水天宮山下の崖に雷とくだけて、むろん人道はない。林屋製茶やスハラ食品のあたりも海である。 

 近道をするには、シケのないときに浪打際の岩石を縫った。が異変は海の方からはじまった。つまり、大和船(北前船)が入港して伝馬船をおろしても、小舟の掛り場所がない。船入澗をつくろうということになって、小舟で土砂を埋立てて、小さい防波堤(写真)をこしらえた。その土砂の残りの上に水天宮崖から絶えず落ちる崩れ土が加わって、いつか小道ができ、山ノ上の山田町の人ひとり歩けるだけの細いケモノ道を通らずに、南北通じるようになった。

 一方、信香町の地ならしをやり、最初の住吉神社を建設した岡田という場所請負人が参拝道をつくるために、来泊の弁財船に伝馬船一パイずつの岩石を投棄させることで、文久元年から明治四年まで十年がかりで入船町先の海を埋立てて、港町をつくった。それで、まず、官舎が四、五戸建ったという。

 明治八年、開拓使はこれを官営事業として埋立てていったので、金曇町(信香町)の大火から衰微しはじめた旧小樽に代って入舟・港・堺の商業地区全盛時代に入っていく。と、いっても、まだ、港町の浜っぷちは、ニシン場所でもあり、春は、通行人が着物のすそをからげて、岩間のニシンを手づかみにし、「ホイ、今夜のおかずができたわい。」といった原始風景がつづく。

 妙見川のオコハチ川は、アイヌ語のオロアツがなまったもので、ニシン群来の場所を意味するが、妙見川の川口辺りは山キ(誰かの屋号)の沢といい、この沢は、のちの鉄道になった山田町裏の沼地につづいていた。

 だいたい慶応二年(一九〇六)に、本州の村くらいになったが、まだ小樽には町名がなかった。明治三年(一九一〇)四月にいたって、小樽仮役所が町村を分割命名するのだが、小樽郡は信香、信香裏、山の上、勝内、金曇、芝居、土場、新地の八町村プラス色内村、手宮村しかなく、翌四年に若竹、有幌、港、堺、量徳。五年に永井、入舟、若松、竜徳、潮見台、開運が追加。さらに、明治六年に新富、真栄、川原、高砂。七年に奥沢村が命名され、十四年に住初、相生両町、高島郡では色内、稲穂、手宮、手宮裏、十六年に住ノ江、曙、十七年花園、十九年山田が新設され、小樽郡二十九町一村、高島郡六町となった。花の稲穂町花園町とイバッているが、まだ八十年そこそこの小樽は、本州城下町にくらべて新開地なのだ。

 で市長、いや新谷昌明さんではない、昔は、戸長と言った。明治五年から漁業の船樹忠三郎や山田吉兵衛、渡辺兵四郎が、戸長から区長への歴代首長であり、ボスであった。

 熊碓村では、明治七年一月に長百姓を設置しているが、村の格は大分下だった。というのは、戸長の下に副戸長、その補佐役に町村用係、長百姓、伍長という役順になるからである。それにしても、折角のクマウスが、東小樽とは近代化のつもりの猿マネ、小樽先人の苦労を知らんのかや。

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(写真は小樽市史より)

~小樽市史軟解 見直せわが郷土史シリーズ⑧

奥田二郎

月刊ラブおたる39号~68号連載より

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吹雪の中、出航の新潟行

お気に入りの赤 ちょっぴり

~2017.3.23~