茶・紙・文房具 〇越 早川商店(色内町 電話 長十八番)㉖

2017年03月02日

IMG_3002

▷萬有の學生の顧客の文房具店◁

區内色内町に、三井銀行と竝んだ石造の大商舖は即ち其れである、同店が今日のごとく知名なつたのは、所謂古い歴史を有してをる暖簾の爲めではないことは、漸く明示十五年の開業だと云うふので分る。早川と云ふのは其當初の経営者で、縁あつて現店主森正則の厳父が代つて営業することとなり、續いて今日に至つたものである。遠慮なく云えば同店の文明式の色彩を帶びて來たのは、實に最近だといふて宜しいのだ、茶と紙で名高い計りでなく「丸越早川」と云へば小樽萬有の學生児童は、誰一人として知らぬものがない丈有名な文房具店である。

▷旭の森と日本武士◁

朝暾輝き渡る森に因んだ、 「旭の森」てう銘茶と、やまと益荒男を誇りにあらはした鉛筆「日本武士」とは、同店賈品中の群を抜いたものである。殊に「日本武士」は、舶來品を壓倒しやうと和製を標榜して名乗を上げたもので、其質も量も、硬軟其宜しきを得た簾にして經済的なものであるから、聲價頓に昻つて愛用一般に廣く、東北各地に及び北海全道は悉く同店一手の商圏内で、其賣捌高のみにて一ヶ年七十萬本に上るとのことである。此の如き有樣であるから、此の鉛筆は軈ては廣告要らずの生きたる廣告となつて、自然同店の名を知らぬものがないやうになつた。

▷仕入・販賣・飾窓◁

 店主森正則氏は、 現に商業會議所議員として文明的頭脳を有つて居る少莊有爲の人物で、店努の擴張についても常に最新の研究を積んで居る。飾窓もあれば、店内も𢌞廊式になつて、何人にも至極便利に出來てをる。仕入に就て考を聞くと、元來仕入なるものが商店の經営上、根本の重要事であるから、萬一販賣法にばかり熱中して仕入上の注意を缺くならば、其商店の繁昌は決して永遠に期することが出來ぬから、此點は店主自らもし主任者を注意もし督勵もしつつある。販賣法に就ては、所謂獅子が兎を搏つにも全力を注ぐといふように、どの方面との商品にでも全力を惜まぬのだが、其爲めに顧客の満足は日に加はり、中々繁昌を増して來たから、店員には親切の上にも親切を以て接客せしむるやう、常に厳しく諭してあるそうだ。廣告は新聞雑誌にも依り、郵便廣告も場合に採り、或は小印刷物の利用もし、又は通信用封筒・商品包紙等にも人目を外さぬやうにして居る。

▷同店の美なる經営主義◁

早川商店では、経営上地方に極めて罕(まれ)に見る特徴の美を有して居る。それが同一區内の本・支店の間に行はれて居るのだから面白い、同店の支店は區内重要な場所柄に八個所あるが、入舟町に在る早川商店だけは本店の直轄で、其他の七支店は、何れも同店出身の所謂暖簾分けをした本店の指揮命令を待つべきであるが、営業上に就ては本店は決して何等の干渉も掣肘もしない、脈絡もなければ關係もない姿、一切受自由平等で、仕入でも品物でも随意任所にし、本・支店とも互いに競争して業務の發展を企圖して居るのである。

~棟方虎夫『小樽』(大正三年)より

p542~546

IMG_3199