小樽ロケの二作品から 75

2019年08月31日

 小樽を舞台とした映画は、昭和11年(1936年)に本市出身の脚本家八田尚之の原作を豊田四郎が演出した「港は浮気風」である。この映画は手宮貯炭場を中心としてロケした作品である。

 以後、戦前、戦後を通して小樽ロケによる多くの作品がつくられている。本号では、このうち近年作られた二つの映画について触れてみたい。その作品は「はるか、ノスタルジィ」と「ラヴレター」で、共に小樽の街や坂道、自然を見事に映像化し余情を感じる作品であったことに注目したい。

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 「はるか、ノスタルジィ」は本市出身の文学者山中恒の同名原作を大林宣彦監督によってつくられたもので、撮影は平成元年(1989年)小樽でクランクイン。叙情豊かな小樽を背景にロケーションが行なわれ平成4年(1992年)完成した。

 山中恒とコンビを組んだ大林監督の作品は「転校生」「さびしんぼう」があり、二人の息が合っているだけでなく、特にこの作品は山中恒の郷土小樽を描いたという点で小樽市民は注目した。

 いつまでも少年のように夢を見続けたいと願う主人公が回想する過去の小樽と現在の小樽が余韻をもって描かれていた。

 大林監督はかつて、小林聡美、原田知世、富山靖子、鷲尾いさ子が10代だったころに起用して一躍有名にさせたが、この「はるか、ノスタルジィ」でも石田ひかりをデビューさせた。この石田ひかりと勝野洋が主役で、わき役として松田洋治、岸部一徳、佐野史郎、川谷拓三、赤座美代子、多岐川裕美……。地元の劇団うみねこのメンバーも協力している。

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 昨年秋から小樽ロケをして、本年完成公開された「ラヴレター」は音楽ビデオやC・F(コマーシャル・フィイルム)、テレビドラマの映像分野でいま注目されている岩井俊二が監督した劇場用の第1回長編作品である。そしてこの映画は、日本映画界に新風を巻き起こしたと言っても過言でないと思う。

 この映画は初めテレビ用の企画であったものが、映画化に決まったので書き直しという岩井自身の原作によるものである。

 山中恒の「はるか、ノスタルジィ」と岩井俊二の「ラヴレター」は、映画と同じ題名で単行本が発刊されているが、これも好評である。

  映画「ラヴレター」は、いまトップアイドルの中山美穂を起用、テレビドラマや舞台で活躍している豊川悦司が共演しているが、二人のもっている内面の魅力を岩井監督は見事に引出している。中山美穂の素直な演技も高く評価したい。

 かつて「相手が不在の恋愛映画をつくってみたかった」という岩井俊二ではあるが、この映画では、画面の隅々まで緻密に編成された「岩井ワールド」の魅力を思うとき、ロケ地に選んだ小樽の建物や坂道、更に初冬の自然はピッタリであったと私は感じた。

 少女時代の酒井美紀、少年の相原崇のほか、范文雀、加賀まりこ、札幌出身の篠原勝之のわき役陣も好演した映画であった。

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 ドキュメンタリーは別として映画の場合、現実と異なり富岡町の建物の隣りに東雲町の建物が並んでいてもおかしくない。

 「ラヴレター」では、市役所の庁舎が病院となっていたし、旧日本郵船(株)小樽支店の玄関が図書館の入口になっていたが、映画ではごく普通のことである。

 昭和50年(1975年)、森川時久監督、栗原小巻、三国連太郎、山本圭が出演した「わが青春のとき」も小樽を中心としてロケされた映画であるが、旧日本郵船(株)小樽支店2階の廊下で撮影されたシーンは、その建築空間が上手に生かされていて印象深いものがあった。

 市役所庁舎の玄関と、それに続く石の手すりのある階段、更に市長室前の廊下も私の好きな建築空間である。「ラヴレター」では、ここも病院の通路として使っていることに感心した。

 「はるか、ノスタルジィ」にも言えることだが、そのほかあのシーンはどこの場所だったのかと市民の間では話題になったところがいくつかあったと思う。

 画家や写真家と同じように、映画スタッフもロケ先を観察しその内面を含んだところまで把握しようとするとき、小樽には意外なところに自分と定位する場所が今でも残っている。だから、それが明治、大正、昭和初期、戦前、戦後と、どの時代を設定しても撮影が可能だと思う。

 今年の小樽は、慶応元年(1865年)西エゾ地オタルナイ場所が村並に昇格してから130周年を迎えた。

A 映画題名にマッチした「はるか、ノスタルジィ」の手書き絵画によるポスター

B 洋画のような「ラヴレター」のポスターで、映画の題名やキャストやスタッフ名も英語とローマ字で上映された。

C 本ねん4月14日閉館となった小樽東宝スカラ座の最終上演映画は「ラヴレター」であった(閉館の日に撮影)

~小樽市史軟解 第3巻 岩坂桂二

月刊ラブおたる 平成5年11月~7年9月号連載より

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