小樽の女 ② 体

2021年04月11日

題字 寿原秀子さん

カット 佐藤規子さん(春陽会友)

 

スタイルぐっと向上

栄養満点のキング・サイズ

 

長く女性美の典型とされていた‶風にもタエぬほっそりとしたナデ肩、ヤナギ腰〟のジョウジョウたるフゼイからいまや世をあげて八頭身万能の時代である。そしてこのいずれからも小樽の女性は規格はずれであるというのが通説だった。ところがある評論家の説によると八頭身というのは要するに全身的な健康美を表示するためのたとえであり、美の基準がこれまでのすわる美しさから立ち姿の美しさへと移行したのだという。

八頭身とは‶顔の大きさが全身の八分の一以上アッテハナラナイ〟ということではなく単に健康美を示す呼称にすぎないとするならば‶首や足が短く肩がいかついところが小樽の女のいいところサ〟などという妙なほめ方をされてきた小樽の女性にもヤッと春が訪れたというものである。

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小樽を含めて一般に北海道の女性は大型が多いといわれるが、このことはとりもなおさずエネルギッシュな若々しさをたっとぶ健康美の第一条件となりうるものだからである。学校の身体検査統計をたよりに小樽の女性の大型ぶりを紹介してみよう。発育の度合いの最も高い十二…十四までの女生徒についてだが、まず身長では、三年間の成長率は平均九㌢…十㌢となっており、全道および全国平均の七㌢前後とくらべると目立って高い。昭和三十二年の調査によるとほぼ十年前食糧事情の悪かった昭和二十三年を一・二㌢…六・二㌢、さらに戦前最高の体位を示した昭和十二年を一・五㌢から三・三㌢それぞれ全国平均で上回っている。体重と胸囲は全国的に回復が遅れたがそれでも昭和三十二年には体重が一・二㌔…三・一㌔胸囲が二・四㌢…四・三㌢あまり全国平均最高を完全にりょうがしている。こうしてみると戦前の女性と比較すると現代の女性は首の長さだけ身長が大きくなったという俗説にも‶サコソ〟とうなづくことができるし、また近年の、女性のキング・サイズ化という全国的な傾向を思いあわせてみても小樽女性の大型ぶりは特筆にあたいするものといえそうだ。

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‶ハマのムスメはオシロイいらぬウロコでハダ光る〟…このソーランブシの一節からは大漁に酔うあらくれ男たちの北国ムスメによせるあこがれが言外に感じられてほほえましいが、化粧にウキミをやつさずとも彼女らが先天的にもっている‶色白の美人ハダ〟は一方で自然環境や生活様式に左右されるところが多い。大きいといわれる小樽の女性の体位もこのような自然や生活環境の影響が多分にあると思われる。小樽は三方を山で囲まれているため道内では函館、室蘭についで温暖な地方とされているが、やはり冬の間は零度以下の日が続きどうしても家にこもることが多く運動不足になりがちである。さらに厚着をする習慣は日常の活動力をかなり減退させるだろう。雪国の女のハダの白さを冬季間直接日光に当たる機会が少ないためと説明する人もある。

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一方体位と一番関係の深い食生活ではどうであろうか。昭和三十一年の保健所調査によると小樽人は日本人の基準量を上回る栄養量をとっている。たん白質、脂肪あわせて九十八㌘が一日の基準量だが小樽は百二十一㌘、反面カルシウム、ビタミンの不足が目立っている。そしてこのたん白質や脂肪をひと昔前までは魚にあおいでいたというのが常識である。こうした美容上ではつつしむべきだとされている動物性たん白質や脂肪の摂取はきびしい寒さにたえねばならない雪国の女性にとってやむを得ない肉体的要求であったのである。

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このように栄養満点で健康美にあふれた小樽の女性にとって美容上では逆効果の食生活と戸外運動の不足が脂肪太りを多くつくりのびのびとした美しい肢体を作るさまたげになっていたわけだが、近年の食生活合理化運動や美容観念の普及は美しいスタイルづくりに身を結びかけている。スキー、スケートなど戸外スポーツも目ざましい勢いで彼女らの間に浸透している。生活様式の上では正座する習慣がなくなってきたこともあげねばならぬだろう。こうしてみてくると長い間悪いスタイルの見本のようにカゲ口をたたかれてきたことが昔話となり、健康美と均整美をほこる小樽の女が街路をカッ歩してて人々の目を見はらせるのも遠いことではなかろう。これは楽しい想像だが、最近の若い女性の肢体はそんな確信のようなものを与えてくれる。

スキーを楽しむ‶若い娘〟たち、小樽ムスメの美しいスタイルづくりはこうしたところからも実る…朝里元湯温泉スキー場で