率先してやる人 大橋 幸弥

2022年09月19日

誠実をもって貫く

 小樽石油石炭株式会社社長の幸弥が開口一番語ったことばは『仕事は一にも二にも三にも誠実をもって貫く』である。この言葉は幸弥の長い人生の信条であるが、その現われは同社が三十七年から実施しているプロパンガスの計量販売だ需要家が使用しているガスボンベがカラになる予定日を記し、その予定日に満たんにしたボンベを届け、残っているガスをはかって使用した分だけの料金を取る。

 食事のしたく中にガスが切れたとか、夜中にガスがなくなったといった、利用者の不便をなくすることと、ごまかしのない販売が目的だという。

 幸弥の幼時は決して恵まれてはいなかった。大阪から小樽にでて海産物商を営んでいた両親のもとに生れたが、生後間もなく父親は事業に失敗して大阪に戻った。しかし大阪でもうまくいかず、四年ほど小樽にやってきた。「私はよく知らないが、事業に失敗した父はどん底の生活をしたようだ。ですから私も小学校をでるとすぐ実社会にでて働いた。」手宮小学校をでて働いたところは当時の石狩石炭株式会社の給仕だった。貧乏ゆえに上級学校へ行けなかった幸弥は〝人について行くためには人なみの学問が必要だ〟と同僚の給仕を誘って樽商で英語を教えていた山本という先生を訪ねて英語を学んだ。英語を習おうと思ったのは特別の理由はなかった。先輩の仕事を見ていると話の中に英語がでてくるので〝オレだって〟というのが動機だったようだ。

 独学する幸弥は通信教育も受けた。また稲穂小学校にあった夜学にも通った。相当負けん強いようだが「お茶くみの給仕に不満はなかった。子供だったのでいろいろ苦しかった。習った英語は忘れちゃったよ。」と笑う。

 石狩石炭はその後北炭と合併した。ここで四十年間つとめた幸弥は小樽営業所の副所長を退いて設立間もない三十一年小樽石炭に取締役常務として迎えられた。翌年社長に就任、石油を手がけプロパンガスができるとこれにとびついた。仕事のことで幸弥は号令がましいことはいわない。『なんでも率先してやる人で、われわれに押しつけない。おまえらがやらないならオレがやるという、なんというか人間を人間としてみてくれます』社員は異口同音にこう語る。

 仕事についてはかなりうるさい。プロパンボンベの安全確認、石炭の量目・品質は絶体におこたらず、間違わないようやかましくいっている。札樽、後志地方で石炭八万㌧を売り、総売り上げ七億八千万円の〇〇〇残す今日、幸弥は『私は大言壮語はいわない。道民の生活必需品を売るという私に課せられた責任を果たすために、誠実をもって貫く』と結んだ。

 

北海タイムス

小樽経済

百年の百人㊷