鰊場のうた(7)~囃したて

2015年01月17日

 ソーラン ソーランと威勢のよいうた声で枠船に取り付けた汲み取り口から大だもで鰊が汲み揚げられ汲み船に積まれる。汲み船に乗り組んだ若い衆はやさかぎで大だもを引き寄せ、枠船に乗り組んだ若い衆はあんばい棒で大だもを汲み船に押してやる。この時、引揚げた大だもの中に鰊が満杯していると若い衆は

 ホラ入ったぞ、ハイッタゾウ(繰り返す)

と気合を入れて囃したて汲み船の中程で大だもの底の部分を持ち上げ

 ジョロンコセイ、ジョロンコセイ

と中の鰊を出すのである。

 この大だもの中に鰊が半分くらいしか入っていないと若い衆は

 ホラ増毛だ、マスケだ(繰り返す)

と囃したて最後に

 ジョロンコセイ、ジョロンコセイ

で終わる。

 これは北海道西海岸の増毛、雄冬方面では、ニシンが郡来(ぐんらい)しても枠網いっぱいに詰めない。増毛港まで枠船の曳航に七、八時間もかかるのでせいぜい半分くらいで枠を放し楽な状態にしておく。波の荒いところなのでやむを得ないわけである。それがいつとはなしに一般に知られ、大だもに入った鰊の状態を囃し言葉に用いられるようになった。

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 次に枠船の中の鰊も残り少なくなってくると、大だもの中に入ってくる鰊も三分の一以下になってくる。

 若い衆は

 ホラ湯さ入った睾丸だ、湯ッコサ入ッタ睾丸ダ(繰り返す)

と囃し

 ジョロンコセイ、ジョロンコセイ

でおしまいになる。

 この形容詞は全く穿ったもので、そのものずばりである。

 この単調な沖揚げのうたは早朝から休みなく続くのだが、三百石(二百二十五㌧)くらい入った枠網一隻分を二隻の汲み船で沖揚げすると、大体二日くらいかかる。

 最初のうちは元気いっぱい威勢よく“ソーランソーラン”やっていた若い衆もだんだん疲れてもくる。同じような歌詞ばかりでやっていると飽きもくる。天気の良い日など眠気がもよおしてくる。

 そこで眠気さましにエロチックなものや、色気のおびた即興の歌詞がでてくると、若い衆達はいっぺんに眠気をふき飛ばして、健康な笑いで元気を取りもどすのであった。