モールス先生の小樽スケッチ(1)

2015年01月26日

CIMG8122モールス先生の小樽スケッチ 越崎 宗一 著より

 明治十年(一八七七)頃は日本近代文化の黎明記で欧米先進国から医学や自然科学の専門学者を招聘したこの中に米国の動物学者でエドワード・シルヴェスター・モールス(一八三七~一九二五)という先生がいた。

 モールスは北米合衆国メイン州ポートランドにうまれ、マサチュセッツ州ケンブリッヂのローレンス科学学校でルイ・アガシーに就いて動物学を修め、後ボードイン大学で動物学及び比較解剖学を講じた。明治十年は日本の腕足類研究のため来日し、江の島に滞在して調査研究に従事しておられたが、文部省から招聘を受け、一度帰国し翌十一年家族を連れて再び来朝した。それから二年間先生は東京大学で動物学の教鞭をとられた。

 先生は大学内で学生を指導したのみならず、街頭に進出しダーウィンの進化論の通俗講演(通訳付)などして一般人士にも感銘を与えた。先生が汽車で横浜から東京へ向う途上大森の貝塚を発見して世に紹介されたのは有名な話である。又モールス先生は弁舌が大層達者であった許りでなく黒板に絵を画くことが非常に上手で、先生の講義をきく者はすっかり酔わされてしまったという。十二年に帰米されたが大の日本贔屓で、日本陶器蒐集のために、十五年に三度目の来朝されている。先生は専門学とは別に日本文化の紹介に功績があり、当時の日本人の風俗習慣を全国に亘って精密に観察写生し、その結果は左の二所となって刊行された。

一、Japanese  Homes  and  the-ir  Surroundings,1889

  日本の家庭とその周辺

一、Japan  Day  By  Day ,2 Vols, Boston  and   New  York,1917

  日本その日その日

 後者は昭和四年啓明会援助の下にモールス先生に教をうけた石川千代松博士の息石川欣一氏の邦訳二冊が刊行された。スケッチも全部収められている。更に昭和十四年簡略版一冊が創元選書として出版された。又原書は久しい以前から米国でも絶版になっており、モールス先生の一人娘ロップ夫人が日本でこの原書の複製出版を希望され同書の鉛板を東京大学へ寄贈されたので、石川、佐々木、宮嶋諸博士の斡旋で昭和十一年興文社が二巻を一冊として刊行した。