モールス先生の小樽スケッチ(2)

2015年01月28日

CIMG8125モールス先生の小樽スケッチ 越崎 宗一 著より

 「日本その日その日」は旧日本から新日本への過渡時代の社会相に鋭い観察を加え、且つ幾多のユーモラスなスケッチを挿んだ一外人科学者の記録である。全部で七十七枚の先生自ら画くスケッチが挿入されているが、風景画は頗る正確であり、人物画は略画ではあるがその気分は十分表われており、或る画家は心理的価値があると評している。

 先生は第二回目渡日の明治十一年七月から八月に亘り北海道を研究旅行され、本書(複製版)の第一巻四一六頁から第二巻四七頁までの七三頁をこの旅行にあてている。これは本道開拓使時代の民間資料としては貴重なものと思われるが、蝦夷は既に北海道と改称されていたにも拘わらず、この科学者はYEZOで押し通している。

 この年の七月十三日に先生は助手種田氏、植物学教授矢田部良吉氏と其助手達と共に横浜を出帆し、函館へ立ち寄って更に小蒸気船で小樽に着いたのが二十六日だった。今のオタモイ、赤岩辺の断崖を地理学上頗る興味があることとして注意している。上陸するや早速土堀利道具を求めて附近の遺跡を発掘し、若干の石器を発見した。港も岸を非常に美しい。奇妙な岩々が石碑の如く水際から突立っている。成層線は鋭くハッキリしており隆起が著しい、大侵蝕が起ってこれらの岩の光閣を遺したものに相違ないと云っているのは、堺町の立岩辺を指しているらしい。立岩は元第一埠頭の基部に在ったもの、埋立の際とりこわされてしまったが、筆者が子供の頃はこの附近でよく泳いだものである。

 この立岩附近の荒廃した民家に、小樽の役人が室をみつけてくれ、乾魚をひろげてあった筵をとり片づけてテーブル椅子を入れ、臨時研究室にしてくれた。二日間ランチを借りることとし、海の生物を渫いあげて調査研究に従事された。